天上の海・掌中の星

    “メリー・クリスマス!”


ウチは一応、代々 浄土真宗らしいんだけども、
あんまり宗教にはこだわっちゃあなくて。
シャンクスが船乗りだからってのもあって、
はろいんも結構昔っから知ってたし、
勿論、クリスマスも本格的にお祝いしてたんだよなと。

物置から引っ張り出した幾つものボール箱から、
金銀のモールだの、カラフルな丸ぁるいガラス玉だの、
クロスやステッキ、天使にジンジャークッキーのオーナメントだの。
赤青黄に緑と豆電球の連なったイルミネーションに、

 「…何で短冊まで入っとんだ?」

大きめの手に取り上げた色紙の束へ、
何だこりゃと怪訝そうな顔をして見せる緑頭のお兄さんへ、

 「あ、それはエースがサ、欲しいものがあったら書いて提げとけって。」

そしたらサンタクロースにちゃんと伝わって、
クリスマスの晩に間に合うように準備しといてくれるって…と。
割とあちこちのご家庭で見られたという“七夕”とのコラボが、
こちらさんのご一家でもあった模様で。
ま、お手紙を書かれてしまうと親御さんには中身を知りようがありませんからね。

 「何だ そりゃ。」

妙な仕儀へのあっけらかんとした説明へよりも、
表情豊かなお顔をくしゃりとほころばせ、屈託なく笑った坊やの無邪気さへこそ。
呆れたようなふりをして、釣られて笑ったゾロであり。
その精悍な苦笑を惚れ惚れと見やってのこと、

 「え〜〜、そんな変かなぁ?」

膨れたのもいっとき、
すぐさま にひゃっと笑み崩れる他愛のなさを見せるルフィの様子に、

 「…仲がいいのは判ったからよ。とっとと飾り付けを済まさんか。」

リビングのすぐお隣り、
今日は彼の独壇場な“戦場”と化しているキッチンから、
半ば呆れたような声が挟まって。
おややと二人が見やった先では、
大きめのトレイへ山盛りにしたホッドドッグを差し入れ代わり、
ひょいと余裕の片手にて掲げた、
天聖世界の天才シェフ殿が運び込まんとしていたところ。

 「わっ、美味そ〜〜〜っvv」
 「ほらほら、せめてテーブルの上を空けんか。」

高校生の冬休みは、期末試験が済むとすぐにもというのがお約束だが、
その期末試験で、2つ3つほど及第点に満たなかったのがあったルフィは、
終業式前の試験休みの間に設けられた補習にも通った身。
なので、やっと自由の身となったのがほんの先週末からだってのに、
クラスのお友達だの、部活のお仲間だのとの約束も取り付けぬまま、
さぁさクリスマスの準備だと、納戸や庭の倉庫を漁り、
ツリーからオーナメントから、要りようなもの全てを引っ張り出しての、
今日のイブを迎えた次第。

 『なんだ? どっかへ遊びに行くとか、そういう予定はないのかよ。』

それこそカラオケ店でのクリスマスパーティーとか、
気の合うお友達との馬鹿騒ぎをするもんじゃねぇのかと。
何の説明もないまま、自力であれこれ発掘し終えたルフィの思惑に、
今朝になってやっと理解が及んだらしき破邪殿が訊いたところが、

 『そんなもん、いつだって出来るじゃんか。』

クリスマスは年に一回しかねぇんだぜ?
そういう特別な行事、いつでも出来ることとは代えらんねぇじゃんvvと。
実に楽しそうに微笑って言ったルフィであり、

 “あれかな。ずっと一人で過ごしてた身だから。”

共働き世帯の、しかも一人っ子が、
不思議と何人もで遊ぶ盤ゲームを欲しがるそうで。
盆や正月に親戚一同が集まった場で遊んで楽しかったの、
忘れられなかったりするのでしょうか。
それと同じような感覚かなぁなんて、
とんちんかんなことを想起していた朴念仁さんの大きな背中を眺めやり。
どんな感慨に耽っているものか、
とんでもなく聡くも感じ取ったらしい…真性センシティブな聖封様が、
こんの鈍感野郎がと、思い切り蹴っ飛ばしたのは言うまでもなくて。

 『〜〜〜、いきなり何しやがるかな、こんのグル眉。』

伝説の大邪妖を地の底へ送り返すとの噂も高い、
低く響いて恐ろしい怒号を震わせもって紡いだお兄さんへ、

 『すまねぇな。唐変木って木ぃ見るとつい、へし折りたくなる性分なんでな。』

への字に曲げた口の端、
火のついた煙草を“かかって来んかい”と煽る手のようにピコピコさせもって。
こちらも全然負けちゃあいません、
切れ長の眸、鋭く眇めさせると、
自前の包丁セットをキッチンの調理台にドンと置き、

 『ああ、ルフィ。料理方面の準備は任せろ。
  腕に縒りかけて、食いもんから飲みもんから絶品づくしにしてやっから。』

 『やたっvv』

睨み合いの相手だったお兄さんの頭越し、
張り切りボーイさんへと愛想よく笑ったのが今朝のこと。
馬鹿騒ぎをしたいだけなら、
それこそどこぞへ出掛けてったほうが賑やかに違いないのに。
あえて家でのパーティーをしたがってる坊やの真意、
何でまた肝心なお前が判らんかなと。
このままいつぞやのハロウィンの二の舞いしやがったなら、
あの、エースとかいう兄貴も連れて来ての、二人掛かりで説教したると。
ルフィ可愛やのあまり、妙な方向で張り切っておいでの聖封様だったりするらしく。
……破邪殿へ料理を仕込んだそのあおりか、
どうやらサンジさんてば、
その身へすっかりと母親属性を育んでしまったようである。
(う〜ん)

 「ん〜っと、テレビ使ってカラオケと体感ゲームが出来っから。
  それとあとは、王様ゲームをやってだな。」

飾り付けの色々が入っていた大小の箱の中には、
トンガリ帽子やサンタのつけ髭の他に、
ハロウィンのものだろう変装グッズも紛れ込んでいて。
何があるかな・何があるかな♪とデタラメに歌いつつ、
腕を突っ込んで適当に引っ張り出した中には、
誰が揃えたものだろか、意外なものも混じってる。

 「お、ネコ耳vv」

カチューシャを髪を梳くよにして真ん丸頭へ装着したルフィだったのへ、

 「…クリスマスつったらトナカイじゃねぇのか?/////////
←あ

上背があるのでと、重要任務としてツリーの頂上の星を任された破邪殿。
カラフルなグラスボールが、何かの実ででもあるかのように幾つも幾つも、
あちこちの梢へ綺羅らかに吊るされた緑のモミの木の天辺へと、
恭しくもベツレヘムの星を突き刺して振り返ったそのまま…微妙に固まりかかっており。
まとまりの悪い黒髪の間から生えた、黒猫のそれだろう愛らしい三角のお耳が、
その下にある無邪気な童顔ととんでもなくマッチしていてのこの反応。

 “他愛ないのはいい勝負だよな。”

自分だってそんな反応しちまうくらい、この坊やへはぞっこんなくせに。
何で“どっかで誰かと騒いで来ねぇのか”なんて つや消しなこと、
よくも言えたな、この野郎と。
もしやして本人に自覚がないらしい思い入れの深さってのを、
先んじて気づいてやってるサンジさん。
何だかなぁと…呆れ半分な苦笑を浮かべたところ、

 「トナカイがどうしたんだ?」

リビングに新しいお声が乱入したのへと気がついた。
舌っ足らずな幼い声だが、
そしてそして見た目も、ルフィよりもちんまりと小さくて愛らしい、
三頭身の半獣型聖霊、サンジの使い魔のチョッパーがやって来たようで。

 「どした、チョッパー。爺ぃが呼んでやがんのか?」

刳り貫きの戸口のところまで出てって声をかけたれば、

 「ん〜ん。そうゆうんじゃない。」

立派な角のある頭をふりふり揺すぶるから、
おおかた暇を持て余しての遊びにでも来たらしく。

 「なあなあ、トナカイって。」
 「ああ。」

何の話?と重ねて訊く可愛い子ちゃんへ、
クリスマスにはトナカイこそつきものなんで、
ネコの耳をつけてる場合かって話をしてたんだと。
こちらさんは一応それなりの知識は浚ってたらしい破邪殿が、
かいつまんで説明してやれば、

 「そういやそうだな。クリスマスといやトナカイだ♪」

何でかは知らねぇけどと、正直に付け足すところがまた可愛い半獣さん。
とてとてとツリーへ歩み寄り、
金色や銀色のグラスボールに幾つも映り込む豆電球の光を、
わあと嬉しそうに眺めやる。
天聖世界の方が、本当の星々の降るほどによく見える丘だの、
そんな穹を薄絹ひらめかせて飛び交う精霊だのがいて、
余程のこと幻想的で綺麗だろうに。
機械仕掛けや電気仕掛けのテレビやおもちゃ、
そういやいつもビックリしては喜ぶ彼でもあったりし。
何の気配もなく、精気もさして放たぬ仕掛けがこうまで鮮やかな様なのが、
素直に驚きだったり嬉しかったりするのだろ。
そんな風なお顔でいたトナカイさん、

 「…そうだ。今日ってば俺の誕生日だ。」

ぽそりと呟いたのは、気もそぞろでいた上でのこと。
誰かに聞かすつもりはなかったらしく。
それが証拠に、はっとすると小さな蹄でお口を塞ぐ。
だがだが、時すでに遅く、

 「ええ〜〜〜っ、そうなんか? チョッパー、今日が…っ。」
 「なっ、ちがっ違わいっ、そんなっ、俺のたんじょびは…っ。////////

そんな、俺はもう子供じゃあないんだから、そんな…誕生日なんてもんは、
どうでもいいと言いかけて、だが、

 「じゃあ、今日はチョッパーの誕生日パーティーに変更だっ!」
 「ええっ!?」

何だなんだ、なんでだそれって。
つぶらな瞳を大きく見開き、お前が悪いっとでも言われたかのように大きに驚いて。
そのまま跳ね飛ぶようにして、壁際まで後じさったトナカイさんへ、

 「だって、そっちの方が大事じゃんvv」

クリスマスは明日が当日だし、それに、

 「世界中でクリスマスやってるのに。
  ウチだけチョッパーの誕生日祝ってるって、何か特別で凄げぇだろ?」

やたやたと余ってたモールを振り回してはしゃぐルフィだったが、

 「そんな…そんなの、ついでみたいだから要らないもん。」
 「お…?」

はしゃぐルフィの歓声が制されて止まり、
見やった先には…ちょっぴりうつむいたトナカイさんが、
小さな両足踏ん張って、何にか耐えるように視線を逸らして膨れてる。

 「クリスマスでいいじゃないか。別にそんな、差し替えなんかされたって…。」
 「だってよ、チョッパー…。」
 「いいからっ。」

予定通りにクリスマスのお祝いをしろ、と。
くっきりはっきり言い放ったトナカイさん。
てっきり一緒に沸いてくれるかと思ったルフィの、無尽蔵なお元気をさえ、
窘めての萎ませるほどに厳然としたお言いようをしたのが、
居合わせたゾロやサンジにも意外ではあったけれど。

 「〜〜〜、俺っ、手ぇ洗って来るから。」

さすがに居たたまれないものか、とてとてとリビングから出の、
勝手知ったるお家の中、廊下の突き当たりにある洗面所へと向かった小さな影だが。


  ――
キャーイ♪、と。


妙に弾けて楽しげな声が、そっちのほうから聞こえて来。

 「そんなっ、俺なんかの誕生日が、クリスマス退けていい筈ないじゃんかっvv」

言ってることは相変わらず、でもでも、明らかに嬉しそうな声がする。
もうもう、困った奴だぜ、ルフィってばよと、
喜色満面なのが わざわざ見に行かずとも重々察せられるほどの弾けようで。

 「…あれってさ、こっちに聞こえてねぇと思ってんのかな。」
 「多分な。」

ルフィとゾロとが顔を見合わせ、

 「誕生祝いは屋敷ん帰ってからって構えてたんだが。」

こちらはさすがご主人様で、
サンジがテーブルに脱いでいたジャケットから小さな包みを摘まみ出す。
霊力が増す特別な水晶のアクセサリだそうで、

 「まあ…いつだって、こういう馬鹿騒ぎのほうが優先されて来てた奴だから。」

ルフィが何の迷いもなく、誰を伺うこともせず、
しごく当然とばかり、チョッパーの誕生日のほうを優先したのが、
奴には初めてのことでそりゃあ驚きだったんだろうさと。
シャツの袖、腕まくりしたシェフ殿が、腰に手を据え、にまにまと笑って言ったのへ、

 「え? あ…だって、そんなの。////////

友達なんだもん、当たり前じゃんかと。
こちらさんも時間差で真っ赤になっているあたり、
なんてまあ、純粋無垢な子ばかりが集ったものか。


  ―― よ〜し そんじゃあ、誰が何たって今夜はチョッパーの方が優先だ。

      ああ、加勢は任せろ。照れ隠しからでも逃がしゃしねぇ。

      こっちも、ケーキはプレート変えるだけなんてケチくせぇことはしねぇ、
      チョッパーの好物Ver.のを 一から作り直すぜ。


何だか妙に盛り上がって参りました、
ルフィさんチのクリスマ…あ・いや、バースデイパーティーvv

 「よ〜しそんじゃあ、
  こないだ柔道部の打ち上げでウケた鼻割り箸の芸を特別に見せちゃる!」

おいおい、それのどこがお誕生日の出し物だ。
(笑)
何はともあれ、



  
HAPPY BIRTHDAY! TO TONY TONY CHOPPER!


  〜Fine〜 08.12.22.


  *こちらさんは長らくかかったお話の後なんで、
   少々おっかなびっくりで書いてみましたが…。
   ウチの彼らは相変わらず、お元気カラーなようです、はいvv


めーるふぉーむvv
めるふぉ 置きましたvv

bbs-p.gif**

戻る